「予感」から「ナイトメア」へ、ナラティブの進化のサイクル

2022年9月月28日 - Hippy

プレイヤーが参加し、関わりを持つことができるようなゲームの制作プロセスは複雑です。実に複雑です。音声の同期、多数の異なるストーリーのアイデア、環境の管理、オンライン接続のサポート、ローカリゼーション、アクティビティ、サンドボックスのバランス調整など、挙げればきりがありません。ゲームを印象深いものにする要素は、体験できるストーリーだけではないのです。でも、あなたが好きなゲームで経験したストーリーは、もともとは別のストーリーで計画されていたものと知ったらどう思いますか?あるいは、とても気に入っていたストーリーは、実際にはゲームに組み込まれなかった、過去のブレインストーミングセッションの内容だったとしたら?こういったことはゲーム制作の過程において、よく起こることだと言ったらどう思いますか?  

そんな「知っていると思っていたはずだったストーリー」の例は「幻影のシーズン」です。これは「光の超越」拡張コンテンツにおける、「予感」というエキゾチックミッションの企画段階の古いスクラップノートから生まれました。「幻影のシーズン」は、開発者とプレイヤーの両方の心の奥底を引き裂きました。人間の真の経験の力を通じて、世界中の何百万人ものプレイヤーを結びつけた物語でした。プレイヤーは、それぞれの罪悪感、喪失、癒しの物語、そして素晴らしいひとときを共有しました。それぞれが内に秘めた弱さを共有したのです。それは素晴らしい瞬間でした。これらすべてを踏まえたうえで、ある簡単なことを思い浮かべてください。それは90年代のホラーの名作、『イベント・ホライズン』です。  

これについては少し後で触れるとしましょう。  

古いスクラップノートから信じられないほど新しい体験への旅を探求するのは、ナラティブチームのメンバーでシニアナラティブデザイナーの2人、ロバート・ブルックスとニッコー・スティーブンスです。  

「とても奇妙な経験でしたね」と回想するブルックスは、ミッション「予感」の当初の計画を振り返ります。「私がBungieにいたのは… わずか2週間くらいかな?1か月くらいだったかもしれませんが、ドアを通って、エキゾチックミッションの最初のブレインストーミングミーティングに出たのは、つい最近のような気がします」  

彼は続けます。「乗り捨てられた船(をミッションの舞台にすること)について話し合っていました。土星の輪の周りで失われた船の古いコンセプトアートがあって、その船が古い海軍の宇宙船のようだったからでした。でも実際には、それが何になるか、誰が敵になるかについて、はっきりした考えはありませんでした。カバルを関与させる可能性について話し合っていたんですが、誰かが不気味な幽霊船を作ったらどうかと言ったのを覚えています」ブルックスは笑いながら付け加えます。「その時すぐにあっ、これだと思って、1997年のSFホラー映画『イベント・ホライズン』についてのアイデアを走り書きし始め、それをグループの他のメンバーの前で掲げて見せました。この映画を見たことがある人はいるかと尋ねたのを覚えています。頭の中で点と点がつながったときのメンバーの表情はとても面白かったですね」 



スティーブンスは暗黒に関連して、予感のミッションを通して登場する奇妙な菌類、エグレゴアについては次のようにも語ります。「エグレゴアは、「予感」の制作に取り組んでいる間、不気味な幽霊船の体験に利用できるアセットと、お互いに連携するアセットを検討した結果から生まれた、いわば副産物だったんです。私は放浪者が自分の船に封じ込めた菌類植物の名前が、面白いことに「デレリクト」(捨て去られた)だったことを指摘しました。ワールドアートをいくつか試した後、その植物アセットを活かして、呪われた船であるグリコンに草が生い茂って荒れ果てた雰囲気を出そうと決めました。これは、グリコンについての基礎となるアイデアである「あってはならない形で戻ってきた」というフレーズに由来しています」 

一度アイデアが定着すると、ナラティブチーム、特にブルックスとスティーブンスがアイデアを詰めるのにそれほど時間はかかりませんでした。SFファン層から応援の声が出始めてからはなおさらでした。「基本的なアイデアとしては、船が本来の目的地とは違う場所へ行ってしまい、歪められた恐ろしい形で戻ってくるというものでした」とブルックス。「王道のテレビドラマのパターンですが、王道であることにはちゃんと理由があるんです」  

スティーブンス曰く、「その植物アセットを使うことを決めた後、放浪者の探索にまつわる伝承と、今後1、2年のコンテンツリリースに渡って説明していく予定の「暗黒」のコアコンセプトに基づいて、それが実際に何であるかを構築する作業を開始しました。そこからエグレゴアは、私たちにとってお馴染みの「暗黒」の連結ネットワークとなりました。そもそも私がエグレゴアにたどり着いたのは、暗黒の仕組み、そしてカルスの崇拝者のカルト的側面に由来する集合意識のアイデアに注目したのがきっかけでした。 

彼は「予感」の開発について、さらにこう語ります。「エグレゴアのアイデアが整ったことで、それがリヴァイアサンの帰還の大部分を占めることになるだろうと確信していました。そしてそれが、現在のリヴァイアサンの素晴らしいスポアコロニーに発展したというわけです!これにより、「予感」に植え付けられたアイデアに基づいて、エグレゴアがどう機能するかを具体化し、死と記憶との関係についてさらに話し合うことができました。」 

ブルックスが懐古します。「ちょっと待てよ。トラウマと、やり残したことを抱えたゴーストというのはどうか、と思ったことを覚えています。「影の砦」と、そこで共通している一連のトラウマを見て、頭の上に大きな電球が浮かんだ気持ちでした。どんなナイトメアが待っているのか、誰がカルスの船に乗っているのか、そこにいる間にガーディアンは何に直面するのか、など、アイデアがどんどん湧き出てきました。カルス自身はどんなナイトメアに見舞われるのか?」 

すごいでしょう?すごいんですよ!ただ… エキゾチックミッションとしてはちょっとスゴすぎる(そして大きすぎる)ため、このアイデアはカットされることになり、さらに素晴らしいアイデアをインスパイアするきっかけを待っていました。「「ナイトメア」はもともと「予感」の一部ではなかったのですが、「幻影のシーズン」と「予感」の出来事に結び付けるためのコンセプトはすべて、エキゾチックミッション自体に組み込まれていました」とスティーブンス。  

チームは、これらのプレイ体験はどうすれば生み出せるのか、と振り返りながら、それはどう聞こえるのか、どう見えるのか、を話し合いました。スティーブンスはさらに語ります。「これは音声チームのカリーム・シューマンとアダム・クロフトと話し合い、過去の音声ファイルを復活させて「肉体と切り離された」文脈で使い、死者の声や記憶が「悲哀の冠」と「暗黒」へのつながりを通して話しかけてくるかのようにしてはどうかと検討した結果です。これは今までになかった手法です。WAVの墓地から古い録音を掘り起こしてきて、ゲーム内の他の部分を壊したり、他の開発チームに迷惑をかけたりすることなく、音声を「ゾンビ化」するプロセスを導き出す必要がありました」 

これはゲームの開発において、とても簡単にできそうに思えますね。「コピーをしてペーストするだけ」のように簡単にできると思う人もいるかもしれませんが、考えなければならないことは色々あるんです!この不気味な声はプレイヤーにとってどのように聞こえるか、何を伝えようとしているのかを理解できるのか。この声がどこから、どうして来たか、という理由を説明するのに十分なだけのナラティブはあるか。英語の録音を他の言語にローカライズするには、10倍以上の作業が必要になるかどうか。これらの声がプレイヤーとコミュニケーションするとき、どのように聞こえるべきか。この「認識のベール」を越えるのは、どのキャラクターか。ケイド?ユルドレン?誰か… それとも他の何か?チームはこういったことを全部考える必要がありました。見た目は単純でも、実際には違うんです。 

スティーブンスが言います。「「幻影のシーズン」が始まると、ナラティブチームが集まりました。ロバート・ブルックスと私は、これらすべてのコンセプトを速やかに「ナイトメア」と結び付けていきました。全部の筋が通りましたし、そして今年の残りのシーズンで語ることになるストーリーのいくつかを支えるのに役立つものとなりました。そこで私たちは、あるだけの「ナイトメア」のアセットをすべて集め、内面のトラウマと、それを克服する物語を構築し始めました。これはグリコンに乗ったキャラクターが自分自身の悪夢に直面し、それを克服できなかったことの裏返しといえます」 

でも、映画と、映画が想像力に与える力という観点に戻ると、『イベント・ホライズン』は大きなインスピレーションの源になりました。この映画では、ブラックホールに消え、そして… 何かが変化して戻ってきた宇宙船を救助隊が調査します。構想段階において、メンバーがインスピレーションを得た映画はこれだけではありません。ブルックスが言います。「スティーブンスと私は「予感」を、映画『エイリアン』の第1作と対比しています。小さくて自己完結型なんです。ただし「幻影のシーズン」はもっと大規模でした。そこから、より大きな場所に、より大きな脅威、そしてストーリーも… より大きくなっていきました。「予感」が少人数のキャストと閉鎖的な環境で構成された初代『エイリアン』だとすれば、「幻影のシーズン」はより大規模になった『エイリアン2』です。また『エイリアン』シリーズと同様に、「幻影のシーズン」の「エイリアン体験」も、より人間性を感じさせるものにする必要がありました。『エイリアン』の初期2作の映画と同様に、キャストには家族の原動力があり、「ナイトメア」を進めるために下した決定と、過去のトラウマの亡霊に直面することの意味を、真に伝えているように感じられました。  



「幻影のシーズン」で個人的に気に入っているストーリーラインは、クロウのストーリーでした。このストーリーに深い共感を覚えました。家と言える家もなく育ち、恐怖や怒りを感じていた過去の自分と、今日の自分がどれほど進化してきたかを調和させてくれました。クロウや過去のユルドレンと同じく、長い年月をかけて築き上げることができた安全のおかげで、今の自分があるんです。「そうそう、クロウは重要なキャラクターの一人になることはずっとわかっていました」と、これまでを思い出しながらブルックスは言います。「クロウのストーリーはユルドレンのストーリーと絡み合うことになると知っていました。そうなるべきだと思っていたんです」  

ちょっとここで、ブランドン・オニールが「幻影のシーズン」で披露した、クロウユルドレンの見事な演技についてお話ししましょう。ブルックスとスティーブンスによると、オニールはブースに足を踏み入れたときから、どう演じるべきかを正確に分かっていて、最初のテイクで見事に演じてみせたそうです。「彼は役割を完全に理解していて、私たちが望んでいた以上のものを徹底的に演じてくれました」とブルックス。「一瞬でクロウからユルドレンに切り替えることができるんです。見ていてとても痛快でした。」  

オニールの演技はまさしく完璧でした。旅を通して、彼の演じるキャラクターがうずくまってすすり泣くたびに、その歯を食いしばるような声から苦痛を感じることができます。でもここで活躍したのはオニールだけではありません。  

ブルックスによると、チームが考慮していた方向性はいくつかあったそうです。ある時点で、イコラをケイド6の記憶に悩まされるキャラクターの1人にするべきかどうかが議論されましたが、結局はそうなりませんでした。イコラがそうなるのは当然のはずだったのですが、リソースとスケジュールの都合がつかなかったのです。「ケイド6がまた戻ってきたらよかったと思いませんか?」とブルックス。「もちろんそうですよね。でも許された時間ではできなかったんです。」 

それでもカイアトルが関与することは、彼女の父親カルスとの「非常に複雑」な関係のために、当然のことと言えました。その関係は最終的に、迷宮「デュアリティ」の背景となるインスピレーションにつながったので、ナラティブチームはこの父と娘の間にある複雑な歴史を隅々まで探求することができました。  

ブルックスは、カルスとカイアトルに対するプレイヤーの反応を思い返し、カルスに対する人々の反応と、彼の行動を正当化する様子を見て楽しんだと言います。「カルスがそんなに悪い奴だとは思わない、とか、彼は自分の本性に嘘をつき、自分の生き方の理由を説明しているのだ、という意見を見るのは… なかなか刺激的でした」とブルックス。「それはもっともだと思います。彼の嘘を受け入れて、彼を擁護するのは簡単ですが、カイアトルの視点に立てば、いや、彼は間違っているかもしれない、と気付くでしょう。カルスは、カイアトルが彼よりも犬のことを愛していたという理由だけで、カイアトルの犬を殺させたのです。完全なソシオパス兼ナルシストです」  

このインタビューの間、ブルックスは物思いにふけっている様子でした。これまでの制作の道を振り返る彼の目の中には、「予感」での過去への旅と「幻影のシーズン」の制作、プレイヤーの反応の複雑さ、そしてDestinyユニバースの豊かな歴史のすべてが浮かび、渦巻いているようです。ナラティブチームと、Bungieのあらゆるチームを誇りに思う笑顔を抑えることができないのは、創造性に満ちた情熱のワイルドさのおかげです。ゲーム制作とはどのようなものかについては、みんなそれぞれの考えを持っていますが、開発者が頭の中で練り上げてきた体験を形にする際の、純粋な愛と気力を完全に把握することはほとんど不可能でしょう。というのも、そんな感情は他にあまりないからです。ストーリーテリングへの情熱や愛を偽ることはできません。この愛こそが、Bungieのチームを本当に素晴らしいものにする、様々なパズルのピースの1つなのです(私にとっては)。

では、ザヴァラはどういう経緯で登場したのでしょうか?正直に言うと、少し「カオス」的に登場しました。ブルックスが打ち明けます。「「孤独と影」の拡張コンテンツ制作中、かなり前にゲームの中に紛れ込んだ非正規の伝承タブがあったんです。それは、ザヴァラが誰かと関係を持っていたことをほのめかしていました。もちろん開発チームによるアイデアだったのですが、ファンフィクションのように扱われ、掘り下げられることはありませんでした。でも私はこのアイデアを気に入っていました。唯一危惧していた点は、「ナイトメア」のコンテキストにおいて、愛する人を失うのは安っぽい悲劇になりがちだということでした。「悪者に最愛の人を殺された。ああ、なんてことだ!」みたいな、ね。ザヴァラをDestinyユニバースのジョン・ウィックにはさせたくなかったんです。でも当時のシニアナラティブリーダーだったジュリア・ナーディンは、夫婦関係とは子供の死後も存続することはめったにない、と言ってきました。子供を失うのは、それほどのトラウマをもたこす経験なのです。それは個人的な経験で、その重さは人々を打ち砕いてしまうものです。ザヴァラの最愛の人物に、家族に降りかかるあらゆる災難を生き延びさせ、彼女自身の癒しの道を追求させることは、より力強いストーリーになると思いました。そして、最愛の息子を失った気持ちを受け入れることのできない彼女はザヴァラの元を去っていきます」   



これは、チームが彼のオフィスに当時謎だった編み針を追加した大きな理由でもありました。趣味の編み物というわけではありません。それは感傷の根底にある彼の心の一部でした。彼は複雑な男であり、「幻影のシーズン」では、このタイタンバンガードの内面を一風変わった形で掘り下げました。

この物語は、多くのプレイヤーの心の琴線に触れました。それは私たちに対しても同じでしたが、ブルックスにとっては、それ以上に自分のように感じられることでした。ブルックスも大切な人を失い、苦しんでいたからです。彼のチームはその事情を十分に理解したうえで、彼が仕事の主題から離れたり、別のこと(ただし彼の健康とメンタルの安全を損なうおそれのないもの)に取り組むのを許可する、という形で彼をサポートしました。「「幻影のシーズン」の開発中、母が突然亡くなりました」と彼は語ります。「ちょうどシーズンの締めくくりの時期に亡くなったんです。この3か月間、奇妙な悲しみのサイクルに陥っていました。その間、3人の異なる架空のキャラクターに関して、彼らの悲しみ方はどんなものか、どう感じられるだろうかということを区別しながら考えていたんです。彼らの苦痛を感じ、その後すぐに、仕上げの準備をしている間にも、自分の悲しみに明け暮れました。このような複雑なプロジェクトに取り組んでいる中、現実でもそんなことが起こったのは奇妙な偶然でした」  

彼は、最終的にはそれがある意味では役に立ったと心のうちを明かしています。曰く、まるで下剤のように。「3人のキャラクターが前に進めなかったところを内面化した後、それぞれの異なる悲しみに対処する方法に取り組まなければなりませんでした。ナラティブデザイナーとして、またプレイヤーとして、これらのキャラクターと共にトラウマを経験したので、母を亡くしたことにも少し心構えができていたと思います。とても大変でした。この1年の内容は多くの人にとって、とても重いものでしたが、「幻影のシーズン」によって、自分自身のエピソードの該当する部分を安全に、深く掘り下げることができたと痛感しています」  

嬉しいことに、「幻影のシーズン」の後、気分を一新できる「宙賊のシーズン」が始まりました。強烈なトラウマから解放され、放浪者と共に海賊を追跡できるようになったんです。エリスおばさんが問題の対処を手伝ってくれて、放浪者おじさんは世界に火をつけて、その途中に冒険をひとつふたつ味わえるかもしれない、という感じです。これがバランスです。  

スティーブンスとブルックスはこのプロセスを回想し、それが必ずしも優雅な道のりではなかったこと、そしてアイデアを理解可能で具体的なものにするためには、より深いプロセスが必要なことを振り返ります。「牽引力とリーダーシップを持つアイデアが得られたら、次の段階では、作ろうとしているものの時点がゲーム内では過去のものになっていないかどうかを確認します。進化していくストーリーを語る際には重要なことです。既に終わった一連のストーリーラインがあったとして、その時点に再び戻ったとしても、無理があったり、手遅れのように感じられるでしょう。私たちナラティブチームの仕事は、この成長し続ける歴史を概念化する方法と、それを「クール」にして、現在のストーリーに関連づける方法を考えることです。それは気を散らすようなものではなく、さらなるアドベンチャーであるべきです」 

それについてスティーブンスは、ゲーム内の歴史とのつながりは必ずしも明らかなものではないが、必ずつながりはあるのだ、と言います。「グリコンとリヴァイアサンとの関係は明らかですが、グリコンが実際にはネッススの造船所から盗まれたレッドリージョン船であることを知っていますか?本当なんです!伝承をチェックしてみてください。」ブルックスが言います。「歴史家のアシュリー・フラナガンと一緒に座って、よくわからないキャラクターの名前を声に出し、どれがぴったりくるか見るというミーティングを何度かしました」 

スティーブンスも続けます。「それに、「光の終焉」のトレーラーで示された、カルスの雄大な「黄身のない」皺のビジュアルが、「予感」ミッションに添付された伝承の説明にちなんでいることを知っていますか?これは伝承「キャプテンのログ」の第一章に書かれています。伝承には些細な手がかりやディテールが非常に多く含まれており、後でゲームプレイやムービーで体験することになるコンテンツのインスピレーションになります。時には、既存のゲーム音楽やアクティビティ、武器、アートに由来することもあれば、まず伝承からインスピレーションを得ることもあります」 



ストーリーテリングの道のりは決して単純ではありませんが、どんなに絶大なインパクトを与える瞬間でも、小さな創造力から生まれたものです。スティーブンス曰く、「これらすべての要素がまとまると、カルスがどんな姿をしていて、悲哀の冠がどう機能するかなどの小さなアイデアが見えてきて、やがてシーズンを形作るコンセプトにまで広がります。今回の「幻影のシーズン」のようにね。例えば「悲哀の冠」は、被る者を打ち砕く呪われた物体から、バンガードが最も辛い思いを鎮めるための力の器へと形を変えました。エグレゴアは、堕落した「暗黒」の物理的表現ですが… それ以上に、現実に出現した経験の結合ネットワークにもなりました。このようなアイデアはより奥深くなり、変化し、成長しました… まるで菌のように。どうですか?まさに円環です」 

円環といえば、コンテンツのカットは技術的に非常に面倒な作業となることがあります。「参照できるかもしれない過去の伝承タブを900個もチェックするんです」とブルックス。古いコンセプトを再利用する場合でさえ、作業は決して楽でも簡単でもないことの一例です。ブルックスは説明します。「Destinyのようなシリーズにおいて、ある特定の瞬間を作り出すには、すべてがうまく当てはまることを確認しなければなりません。アイデアは理にかなっているか。全世界のプレイヤーにとって、各言語での名前の翻訳は安全か、また現実の出来事を意図せずして連想させるものとなっていないか。アイデア自体は素晴らしいものでも、それが安全な方法で、またはゲームにとって適切な方法で実現できなければ、それは失敗です。それも仕事の一環です。アイデアをいかにうまく機能させるか。アイデアのつじつまをいかにうまく合わせるか。 

ブルックスの言うとおり、ナラティブチームは何も無駄にしないことを決意しています。「死体は余さずに使うのが好きです」とブルックス。だからアイデアがカットされたとしても、それが死ぬことはないのです。「私のコンピューターのフォルダには、未使用のコンセプトアートやプロトタイプのアイデアがたくさん詰まっています。ブレインストーミングミーティングに参加するときはいつも、今日はどんな奇妙なアイデアを実現できるか、と考えます。実はそうやって「幻影のシーズン」のハーベスターも生まれたんです。これは先輩ワールドアーティストのイブ・アストラが、当初「死者の祭り」用に考えたデザインです。何も無駄にしなければ、新しいアイデアが尽きることはありません」  

このように、カットされたコンテンツにインスパイアされて、Destinyの力強いストーリーが生まれたということが多くあるのです。もちろんそれ以外にも、恐ろしい90年代のホラー映画など、言われなければわからないようなものからもインスパイアされています。あるいはミームとか。または、どこからともなく出てくる奇妙なアイデアとか。難しい点は、それを磨き上げ、プレイヤーが心で感じて大切にできるようなものへと作り上げることです。それぞれのパズルのピースは、未来のゲームの設計図を作り上げる物であり、過去の経験の見方を変えることさえあります。それは、バランスであり、脆弱さでもあり、そしてどんなに突飛なアイデアでも、ためらわず試してみることが大事なのです。優れたチームがあれば、一見すると奇妙なアイデアが本当に素晴らしいものに変わる可能性があるからです。これから何がやって来るのかは分かりません。でも「光の終焉」とその先に向かう旅の中では、ぜひこのささやかな記事を心に留めておいてください。  
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