
I: エッグクロス
伝承
エウロパに現れた彼の姿は、アルコンプリーストと変わらない大きさをしていたが、その中身は空虚だった。彼はエーテルを必要としていた。触れられただけで虚無へと体が崩れ落ちてしまうのではないかと、彼自身も恐れていた。触れられれば腕が勝手に切断され、皮膚が剥がれ落ちるような気がしていた。アーマーしか身につけておらず、4本の腕には千年前の織機が握られていた。 彼らは彼をあざ笑い、「ナムラスク」と名付けた。「虚無の織り手」という意味だ。「本当は人間ではない」という意味で、人間を「ノーマン」と名づけるようなものだと彼は理解していた。 エラミスは、新顔たちがダスク以前の習慣に固執しないようにするため彼らを隔離した。ナムラスクは氷の下に掘られた小さな巣穴に押し込まれた。この衛星の地表は放射能で酷く汚染されており、エリクスニーですらそこでは生き長らえることができなかった。 小さなウィンタードレクたちは彼に親切だった。彼らはナムラスクのことを、弱すぎて生存に必要なエーテルを手に入れられないのだと考えているようだった。ここに押し込められた以上、あとは死を待つしかなかった。 「私は働ける」と彼は耳障りな声で言った。「包帯やケープ、アーマーの裏地、エッグクロス、サップソーク、祈祷用の敷物、それにウォータークロスも作れる。私は織り手だ!」 「大きな友よ」と、1人のウィンタードレクが静かに言った。「その体躯は織り手のものではない。エラミスのために戦ったらどうだ?」 ナムラスクは身震いした。彼は戦えなかった。彼はリーフで起こったことを目にした後では。酷い光景だった。ZIVA、トワイライトギャップ、ロンドンでも同様の経験をしてきた。クリディスはそれこそが救済だと断言した。 「割れた卵を持ってきてくれ」とナムラスクは懇願した。「そうすればエッグクロスを作る。エッグクロスを作る者がいなければ、赤子をくるむこともできない」 ドレクたちが見守る中、彼は歯を使って卵の殻の内側を覆っている薄い繊維状の組織を引き離した。それらをさらに長い繊維に分け織機に固定すると、上から下まで伸ばして縦糸にした。2本の腕で織機を膝の上に固定すると、彼は慎重に3本目の腕で縦糸を滑り込ませた。素早く動かしすぎればエッグスレッドは切れてしまうだろう。 彼の命はこの瞬間にかかっている。彼の4本目の腕が素早くシャトルを縦糸に通し、1本目の横糸を引っ張った。糸は切れていない。彼は織り続けた。 「よく見てくれ」と彼はドレクに言った。「エラミスが敵に勝利したら、我々は物作りを学ぶ必要がある」 彼らは座って見物した。断腕直後でまだ成長しきっていない下方の腕が、彼の動きを真似している。彼らは、エオリクス、オエリクス、そしてユリクスと呼ばれていた。男、男、女の3人兄妹だ。 作業が終わり、ナムラスクは彼らにエッグクロスの断片を渡した。彼らは驚いた様子でつぶやきながら、それで自身の頬をなでた。「それをキャンプのキャプテンに届けてくれ」と彼は言った。「食事と繊維を与えれば、ナムラスクは布を織ることができると伝えるんだ」 それは彼にとって、織機で作ることに成功した初めての作品だった。

II: ホロウホット
伝承
ナムラスクは体力を取り戻すと、非流動性のループカッターを使ってドレクたちと一緒に氷のトンネルを他の場所へと接続する作業に従事した。彼がホロウホットの生地を織ってそのトンネルを断熱すると、すぐに一部の場所はアーマーを着なくても十分なほどの暖かさになった。卵がいくつもかえり、子供たちは巣穴で育てられた。 入り組んだ岸辺から脱出してから、ナムラスクは初めて自分の生存以外のことを考えられるようになっていた。 その頃、エラミスの配下である戦士フィラクスが勧誘に訪れた。 黒い空の下に広がる剥き出しの氷の上で、彼女はクリスタルの板を壁のように作り上げるエラミスの動画を再生した。その近くにある氷の箱の中にはベックス・ミノタウロスが閉じ込められていた。 「これはエリクスニーの未来だ。お前たちの中で、この力を手に入れたい者はいるか?」と彼女が聞いた。 彼は頭を上げなかった。 「おい」 ナムラスクはゆっくりと顔を上げた。フィラクスのショックピストルが彼の額に押しつけられた。彼女は休戦の印として2人の間にピストルを置くと、敬意を示すためにイレリース流のお辞儀をした。「お前は古の戦士のような体をしている。なぜ戦いに加わらない?」 彼は恐怖し、言葉を詰まらせた。口から出た声は力強かったが、まるで他人の声のように響いた。「私は前にエリクスニーが新たな力を求めた時に起こった出来事を目にした。その以前も、その前もだ。同じ轍は踏まない」 フィラクスは肩をすくめると、ピストルを拾って立ち去った。「お前の代わりなど腐るほどいる」 その後、ユリクスが彼を説得しようとしたが、ナムラスクは再び断った。「エラミスはこの力を与えることで権力を得ている。彼女はこの力を全ての者には与えられない。与えてしまえば、彼女の権力は失われる」と彼は言った。「彼女はサービターを破壊したのか?」 「恐らく」とユリクスが静かに言った。「ドレクたちは、彼女が力を与える儀式の最中にサービターを破壊したと噂している。時代が変わったことを証明するためにな」 「なるほど」 文化が成り立つには必ず暴力が必要になるのだろうか? ここでは基本的な労働者が、織り手や農民や医師ではなくドレクとなる。それは1丁のピストルであり、1本のナイフであり、1つの労働単位でもある。何を盗めるかが、そのドレクの命の価値となる。 そして、ナムラスクはその法を作る手助けをした。 彼は低い声で言った。「彼女は救済を訴えているが、全員を救うことはできない。彼女はエーテルの不足をコントロールしている。我々が1人で手に入れられる量よりは多いが、十分というわけでもない。我々を支配するためだ」 「お前は戦略的な考え方をする」ユリクスがいたずらっぽく言った。「虚無の織り手になる前は何者だったんだ?」 「ホロウホットの秘密を知っているか?」と彼は言うと、不意に数枚の生地を地面に置いた。小さな子供が氷の冷たさに凍えずに遊べるように敷いたのだ。「なぜその断熱性が重要なのか?」 「ホロウホットの秘密とは何だ? 何がそこまで重要なんだ?」と彼女は彼の言葉をまねた。 ナムラスクは糸の先端を見せた。その中心に真空状の小さな泡がいくつも見える。 「中には何もない」と彼は言った。「だが思い切り引き裂けば、その無は破壊される。そうなれば使い物にならなくなる」

III: バナークロス
伝承
エウロパはボイドよりも寒い。なぜならその氷が、剥き出しの真空よりも早く熱を奪ってしまうからだ。この場所で生成されたエーテルは、氷と放射能、そして金属と血の味がする。ナムラスクはこの場所がエリクスニーの新たな楽園ではないことに気づいていた。これは太古から存在する場所だ。そして必ず崩壊する。 「どうにかしろ」ユリクスが懇願するように言った。「でないと全員死んでしまう」 「駄目だ」とナムラスクは唸ると織機に触れた。彼はエラミスに近づくことを恐れていた。そうなれば彼女の贈り物を受け入れてしまうかもしれない。 「どうにかしてくれ」エオリクスが懇願するように言った。「守護者を探してきてくれ。お前なら偉大な戦士たちを知っているはずだ。お前もかつてはそうだったんだろう」 「駄目だ」とナムラスクは再び言った。彼は赤子がその暖かさに浸れるように、熱ランプに近づけた。彼は誰かをエウロパに呼び寄せても、その者がエラミス軍に加わってしまうことを恐れていた。 「どうにかするんだ」オエリクスが懇願するように言った。「イーロパからの脱出方法を見つけてくれ。お前の言うことが正しければ、エラミスは皆に死をもたらす。お前は何を恐れている?」 「分かった」と彼はぴしゃりと言った。「裏切り者を探してこよう」 ナムラスクは初めてリース・リボーンまでの長い距離を歩いた。それは人間の古い街の残骸の中に建てられており、その無骨で複雑な姿に、彼は畏怖と血への飢えを感じながら唸り声を上げた。彼はエリクスニーがシティの壁を破り、その中のものを強奪した時のことを思い出していた。 スニクシスとピクシスがエラミスの部屋の守衛についていた。双子が彼にイレリース流の挨拶をした。「お前が彼女に敬意を示せば、彼女もお前に敬意を示すだろう。偉大なるアキ――」 「その名を口にするな」と彼は唸り声を上げた。奪われた名前などどうでもいい。「エラミスに会いに来たわけではない。バリクスはどこだ?」 かつてハウス・オブ・ジャッジメントに属していたバリクスは彼を見て笑った。「あの穴の中にずっといるものと思っていた」 「私をあそこに入れたのはお前だろう?」 「私ではない」と言うと、バリクスは一対の手を交差させてぴしゃりと叩き、残りの一対でもう一度叩いた。「あれは当時のキャプテンがやったことだ。お前が誰だか知らなかった。忘れ去られる気分はどうだ、スモークソードよ?」 ナムラスクは歯ぎしりをした。彼は4本の腕を必死に押さえつけた。「頼みたいことがある」 「駄目だ」とバリクスは近づいて囁いた。「こちらの判断は変わらない、大衆の災いよ。お前は容赦しなかった。慈悲を求めても無駄だ」 「お前はいずれ自分を裏切るであろう女王に仕えるのが習慣になっている」ナムラスクが囁き声で言い返した。「エラミスに未来はない、バリクス。彼女は大嵐を経験して気がふれている。私がかつてそうであったように」 「彼女は何を犠牲にしているのかを理解している。でなければ他の星にパートナーや子供を送り出したりはしない」 「アスリスは死んだのか?」残念なことだ。かつては彼女こそがエラミスを導く光だった。「お前は常に逃げ道を用意している。それに協力して――」 「戦いから逃げるつもりか?」バリクスは真面目なはっきりとした声で言った。静寂がその答えだった。「エラミスが力を授けようとしているにもかかわらずか?」 「私は今、ドレクの生存者として生きている。私には子供がいる。彼らを巻き込むわけにはいかない」 「お前がリースに残してきた船にも子供はいた。ロンドンには人間の赤子も――」 「私はもうあの頃のような殺戮者じゃない!」 「いいや、あの頃と同じだ」 「だが、そうなることは望んでいない! リーフにいた頃の私は――」ナムラスクは言葉に詰まった。「私は怪物のフィクルルを見た。その前は、デビル・スプライサーだ。だが我々の品位の失墜、この復讐劇は阻止しなければならない。バリクス、頼む。力を貸してくれ」 「駄目だ」とバリクスは言った。「お前に協力はできない。ただ…」 バリクスの義肢が雪に文字を刻んだ。ナムラスクは副眼を何度か瞬くと、ようやくそれが人間の文字で「ミスラックス」と書かれていることを理解した。 「彼にお前のことを伝えておく」バリクスが文字を消した。「ただ、これは助けたわけではない」彼の金属の手が、彼の腰に巻かれている破れた青い旗に触れた。「その代わりに、新品のバナークロスでこれを修繕してもらいたい。糸はこちらで用意する。お前は私のためにそれを織るのだ、“ナムラスク”よ」 ナムラスクはできる限りのことをした。だがバナースレッドはあまりにも繊細で生地も非常に分厚かったため、彼が作業を終わらせる前に、バリクスの指示でガーディアン――機械生まれ――がエウロパに向かったという報告が届いた。

IV: スキャッターケープ
伝承
ナムラスクが大慌てで巣穴の中に駆け込んできた。「移動するぞ! 死神が氷の大地を歩いている!」 オエリクスとエオリクスとユリクスがその言葉を皆に伝えた。ナムラスクが想像していた以上の人数が集まった。ナムラスクは彼らに警告した。「機械生まれの近くに隠れながら物資を奪わなければ、放射能とエーテル不足により我々は全滅してしまうだろう」 彼らは出発した。だが1時間もせずに、1発のライフル弾がナムラスクのアーマーを貫いた。彼はふらつく程度で済んだが、空気とエーテルが真空に向かって勢いよく吹き出し、彼を後方へと突き飛ばした。「ガーディアンだ」彼は警告した。「仲間を呼ばれるぞ」ガーディアンは腐食動物のように仕留めた獲物に群がる。 新たな弾丸がナムラスクのヘルメットに命中した。「スキャッタークロスを持つ者はケープを渡せ!」ナムラスクは最初に受け取ったケープと引き換えに、バンダルの腕に織機を押しつけた。「貴重なものだ」と彼女が叫んだ。「これは受け取れない!」 「取りに戻る」と彼は約束した。ナムラスクはアーマーの中で血が滴るのを感じながら、大急ぎでケープから毛布を作り出した。 彼は氷に向かってランチャーを撃ち蒸気を作り出した。「こうするんだ!」と彼は叫んだ。「雲を作って走れ!」彼らは氷に向かって撃ち、逃げ出した。エウロパの低重力に引っ張られて氷の嵐が勢いを失っていく間に、ナムラスクは不可視の毛布にくるまってガーディアンに向かって這いながら進んだ。ガーディアンの注意を引きつけるために、彼は時折わざと姿を現した。 ガーディアンは彼を追った。 ナムラスクは氷に触れていたため、ゆっくりと体が凍り始めた。人間の姿はまるで細長いエリクスニーのようで、2本の腕を持ち、滑らかで無表情な人形のような顔には2つの目があり、歯は小さく短かった。彼はこれまでに殺した――8人の――ガーディアンたちのことを思い出していた。彼がゴーストに敬意を払ったことは一度もなかった。 彼は燃える肉体の臭いを思い出していた。普通の人間、若者や年寄り。彼らの庭と建造物。星と世界。決して忘れることのできない、大昔の命令。燃やし尽くせ。燃やし尽くせ。燃やし尽くせ。 ガーディアンが近づいてきた。 ナムラスクのアーマーのラジエーターが水たまりを作り出していた。ガーディアンは剣先を使って、ナムラスクの毛布の端に触れている氷の状態を確かめた。ナムラスクは小さな音を立てた。まだ死にたくない。 ショックピストルの爆発がガーディアンのアーマーに当たってはじけ飛んだ。ガーディアンは振り返ると、剣を降ろし、ライフルを構え、ユリクスに照準を合わせた。愚かで勇敢なユリクスが、ドレクのように全力で逃げ出した。彼は彼女に助けられた。 ガーディアンは彼女をあざ笑って言った。「撃ってくるとはいい度胸だ。お望みどおり相手にしてやる!」 ビークルが現れた。ガーディアンはそれに乗ると、ユリクスの後を追った。ナムラスクが再び彼女の姿を目にすることはなかった。

V: ウォータークロス
伝承
集団の一部が戻り、凍結しかけていた彼を発見した。彼は錯乱状態に陥りながら四肢を折り曲げ、ユリクスの名前を呼んでいた。ナムラスクが救出されると同時に、遠くで船が離陸し、チラチラと光を発しながらステルス状態になると、そのまま姿を消した。彼らは移動手段を失った。 「なぜ戻ってきた」とナムラスクが唸り声を上げた。「愚か者たちめ。他の者たちと一緒に… 逃げるべきだった…」 「織機を返す必要があった」とバンダルが言った。彼女はそれを傷ついた彼の胸の上に置いた。彼がうめき声を上げた。 それから時間が流れる中で、無線が遠方の通信を受信して何度も甲高い音を立てた。サービターの間でやり取りされている暗号化された戦略データ。エラミスの説教。頭上に広がる赤い世界の音楽。人間の言葉が聞こえることもあった。それはガーディアンの新たな勝利の自慢話であったり、下品で誉れ高い試験的な娯楽を罵る声だったりした。 フィラクスは死んだ。プラクシスもだ。 祭司クリディスは死んだ――スニクシスとピクシスも運命を共にした――そしてプライム・サービターは破壊された。 エラミスは、自身の力に飲み込まれて死んだ。かつてリースで生まれた者の1人であり、その最後の1人となるだろう。 ナムラスクはこうなることを知っていた。彼はこの光景を何度も目にしてきた。フォールンたちは今では自らを打ち負かすほど、敗北というものを熟知していた。彼は怒り、氷に爪を立てた。 移動手段を失った生存者たちのために、彼はウォータークロスのシェルターを作った。厚手の袋を持つ合成皮で氷をくみ上げることで、ある程度の放射線を遮断することはできた。傷口が痛むと、彼は患部を氷で麻痺させた。トゥルハは彼の姿を見ても何も言わなかった。彼はそれに感謝していた。 「トランスミッターを探す必要がある」と彼は言った。「ミスラークスに連絡して戻ってきてもらわなければ」 だが生存者たちはエウロパから動けなかった。彼らはナムラスクを探し出し、子供たちを連れていたが、エーテルは不足していた。 彼らがナムラスクを見つけられたということは、その追跡者たちも彼を見つけられるということだ。

VI: 超伝導体
伝承
「私の父が迎えに行く」無線の声が断言した。「父の船は俊敏で、その航海は正確。父は光の動向を研究しており、光はあなたの元にも同じように訪れる」 エーテルが足りない。彼らは考えを共有し、とにかく子供たちの腹を満たすことを優先した。他の者たちにはわずかなエーテルだけが与えられた。 しかし、それでも彼らは死んだ。 ナムラスクは無線の声を信じた。彼は他の者にもその声を聞かせた。「彼女はお前と同じぐらいの年齢だ」と、ある日、彼は言った。「生まれてからそれほど時間は経っていない」 「父はあなた方のために戻る」その声が言った。 それは馬鹿げた返答だったが、それでも彼は質問した。「お前の父親は何者だ? 光が我々を拒否しているのに、彼はなぜ光を研究できる?」 彼女は長い間沈黙した。だがそれは恐らく彼女のせいではない。無線機が破損していたのだ。彼は超伝導性の糸で無線を補修した。 彼女が答えた時、その声から困惑した様子が伝わってきた。「私はエイド。ハウス・オブ・ライトのケル、ミスラークスの娘。父は光の近くにいる。なぜなら近くに光の戦士がいるから。私の父はトラベラーのガーディアンと協力している」 ナムラスクは膝をつき、恐怖に凍り付いた。彼は無線から継ぎはぎをむしり取りその場から立ち去った。「彼らとは行動を共にできない!」と彼は怒鳴った。 オエリクスは彼を呼び止めた。だがナムラスクは怒りと恐怖に満ちていた。彼がトラベラーの下に立てば、ガーディアンは間違いなく彼に気づくだろう。

VII: 時間は布地
伝承
「こちらはミスラークス」肩書きはなかった。 「ハウス・オブ・サルベーションの暴力を放棄し、ハウス・オブ・ライトに救いを求める者へ。これよりアステリオン深淵の近くにスキフを着陸させる。必要なものだけを持ってこい。優先すべきは財産よりも生存者だ。メッセージを繰り返す」 「アスティラ深淵」とトゥルハが言った。「その場所なら知っている。近くに身を隠せる洞窟がある」 「いいだろう」とナムラスクが言った。彼は織機を掴み取った。全員が自分を見ていることに彼は気づいていた。優先すべきは財産よりも生存者だ。 「これがなければ私は存在価値を失う」と彼は抗議した。 オエリクスとエオリクスが彼からそれを奪い取った。「ユリクスは織機を守るために死んだわけじゃない」 洞窟の中に入って2日が経った頃、ナムラスクは自分たちの体温によって氷が昇華し始めていることに気づいた。それに興味を示した彼は、エーテル不足で重くなった体を引きずり、一番近くの壁に近づいてその様子を観察した。 ナムラスクは別の洞窟の中をのぞいた。順番に、次から次へと。その無限の洞窟は、無数のナムラスク、オエリクス、エオリクス、トゥルハ、子供たち、そして生存者たちがここにいることを明かしたーーここでは、彼らは氷漬けになって死ぬ――ここでは、彼らはカバルに殺される――ここでは、彼らはこの場所でガーディアンたちに銃撃され、パニックになって洞窟から飛び出す。 「ここから出るぞ」とナムラスクが耳障りな声で言った。 「えっ?」 「立つんだ!」と彼が怒鳴った。「立て! ここから逃げるんだ!」 彼の声は剥き出しの恐怖に満ちていた。彼らは子供たちを毛布にくるんで走った。まるで全てが光の意思かのように、そして大いなる機械が彼らを見守っていたかのように、無線機から声が聞こえてきた。「こちらはミスラークス。ステルス状態で接近している。5分後にアステリオン深淵に到着する。避難場所を探しているなら私のもとに来い。今もなおハウス・オブ・サルベーションに忠誠を誓っているのなら、古き法の名の下に、安全な通行を要求する。これは人道的な任務だ」 ナムラスクは、漆黒の空を背にして迷彩柄に明滅する歪んだ景色を探した――あそこだ! ミスラークスは木星から漏れ出す光に紛れながらその姿を現した。 「分散しよう」と彼はトゥルハに言った。「着陸地点に集まるのは得策ではない――」 無線が甲高い音を立てた――恐ろしい音だ。ベックスのメーザービームが接近するスキフを捕らえ、氷に叩きつけた。燃料、空気、そしてエーテルが爆発し、炎を上げた。 ナムラスクは驚かなかった。光は彼らのもとには届かない。大いなる機械は彼らを見守ってはいない。「移動するぞ」と彼は言った。彼はトゥルハに近づき、彼女に触れた。「グズグズしている暇は――」 白い霧が彼女を包み込む。いくつもの小さな電気的な火花が彼女のアーマーを覆いつくした。彼女は彼を見上げると驚いた表情を浮かべた。ベックスが彼女の中にゴブリンをテレポートさせ、彼女の体をバラバラにした。感情のない赤い目を持つその機械が銃を構えた。 オエリクスはほぼ間を置かずに銃で撃たれて死んだ。エオリクスは急いで彼のもとに向かうと、まるでそうすることでオエリクスの命を維持するかのように、漏れ出している――昔流に言うと、彼の魂の道とでも言うべきだろうか――エーテルをかき集めようとしている。だが、エオリクスも殺されてしまった。 ナムラスクは子供たちとベックスの間に移動した。一瞬でも、一秒でも、時間を稼ぐことができれば、望んでいた以上の結果を得られるはずだ―― 「こっちだ!」と若い声が叫んだ。「エリクスニー、こっちだ!」 ようやくミスラークスが姿を現した。彼は1人ではなかった。彼は光と共にいた。 そしてそこにはガーディアンの姿もあった。

VIII: そして光も
伝承
彼らは大いなる機械が見守るシティへと向かっている。 「何を恐れている?」ミスラークスがナムラスクに質問した。 「なぜ恐れない?」ナムラスクが聞いた。その若者は彼を当惑させた。「そこで我々はどんな扱いを受ける? 彼らは我々に復讐しようとするだろう。そうなるのが当然じゃないか?」 「何か隠していることでもあるのか?」ミスラークスが冷たく言った。 「いや」とナムラスクは突き放すように言うと、シェルから飛び出している自分の膝をこすった。「ああ。私は――」彼はそこで言葉を切った。「いや。言えない。言えばお前は人間たちに言わざるを得なくなる。それにお前に嘘をつかせるわけにもいかない」 「かつての自分に戻ることを拒否しているということか」ミスラークスは推し量るように言った。「新たな取引の術を学びたいか?」 「布を織りたい」とナムラスクは言った。「まだそれほど上手くはない。だがいずれ上達する」 「布を織るのは接合と少し似ている」とミスラークスは考え込むようにして言った。「スプライサーは縦糸と横糸ではなく、金属と肉体を扱う。だが目的は同じだ。技で命を育み、その者の人生で技を育む」 「スプライサーは信用できない」ナムラスクは唸り声を上げ、胸をさすった。スプライサーは彼に何をするつもりだろうか? 彼に機械の癌を植え付け、彼を再び強化するのだろうか? 彼に不死の狂気、汚染されたエーテルを与えるのだろうか? ミスラークスの主眼が輝いた。「私はいわば古いスプライサーだ。あらゆる者の中に存在する光を探す。スプライサーの中には2人の人物を縫い合わせられる者もいるかもしれない。リーフのアウォークンがそうしたようにな」 「だが光を持たない者もいる。光は我々を放棄した。光が誰を特別としているかは明らかなのに、なぜ光を求める?」 「我々もかつては光を持っていた」とミスラークスが思い出すように言った。「再びそうなる可能性もある」 ナムラスクは、広大で血塗られた過去の時代を思い返した。 「リース… 私はあの場にいた」ナムラスクが囁いた。「大嵐の時だ。チェルキスの死後、私は大いなる機械を追跡するために船を出した。私は戦うことのできないハウスを放棄した。私は機械を追跡するように艦隊に命じた。多くの船が我々に続いた。それぞれの船が人間たちと戦いを始めた。だが恐らく、戦いを始めたのは私が最初だった」 ミスラークスは彼を見つめていた。そして、ようやく口を開いた。「なるほど。我々もセイントを恐れている。ただ、セイントが彼らの名前を知っていたとは思えない」 *** ナムラスクはエリクスニーに与えられたシティの一区画の中に居を構えた。日中は、他の者たちと織機を共有した。夜になると、彼は眠りにつくまで失った者たちの名前を囁いた。 1人の人間にある言葉を投げつけられる日までは、熟睡できていた。「赤子喰らいめ!」 ナムラスクは背を向けた。だが彼は怒鳴り返したかった。宇宙船の密閉空間と閉ざされた生活が彼の頭をよぎった。生き残った子供たちと、そうでなかった者たちに対して厳しい判断を下した時のことを思い出していた。彼はこの時、自分たちが若い人間をむさぼり食いたくなるほど、堕落しきっていないことを残念に思った。 彼の目には、エイドのような若いエリクスニーの姿が見えていた。彼は自分たちの約束と希望に向かって泣き叫びたかった。エイドは彼を嫌悪し、彼を避けた。それで良かった。 やがてナムラスクは人間のために織ることを学んだ。彼のお気に入りの仕事はフェルト作りだったが、絹の扱い方も習得した。彼はシルクメーカーが好きで、時々、手動でそれを動かし、1本の腕で張力を保ちながら、他の腕でスピナレットから糸を引っ張ることで最高の生地を作り出した。 彼はガーディアン・ウォーロックのように光を編みたいと考えた。彼らは何らかの手段を用いてフィールドウィーブを紡ぎ出す。ミスラークスならその術を習得できるかもしれない。 ある日、彼の店に機械が訪れた。彼は不安を感じながら自らのシェルをかいた。その機械人間は「エクソ」と呼ばれていた。彼らの姿はベックスを思わせた。その強化された体は、柔軟で不安定な人間や2つの魂をもつアウォークンよりも、安心して見ることができた。このエクソは色彩豊かなマントを身につけていた。 「お前を知っている」とその機械は言った。 彼はひるんだ。「ナムラスクは生地を売っている」と彼は理解できないふりをしながら、しわがれた声で言った。 「ナムラスク」と彼女は静かに笑った。「私は年老いた、虚無の織り手だ。お前と同じぐらいの年齢だろう。ただ、大半の同胞たちとは違い、私はロンドンを覚えている――お前のことも」 彼は布の巻物をエクソの目の前に置いた。彼女は彼の手を掴んだ。彼女の機械の肉体は彼の体よりも温かかった。 「時間軸はその瞬間ごとに発生する――我々は巨大なタペストリーを紡ぎ出す1本の糸の上で生きている。ただ、この糸の上で我々の間に起こった出来事は修正できない。そこから逃げることはできない。お前は殺し屋だ。お前と私は今も戦争を続けている」と彼女は耳障りな声で言った。 彼女は彼の手を離した。彼は緊張した様子で彼女を睨んだ。荒く息をする彼の口からエーテルの煙が上がった。 彼女は嬉しそうに彼の4つの手を軽く叩いた。「私の名前は古代の女神からとったものだ」と彼女は言った。「お前と同じ数の腕を持つ女神だ。その手には、ダルマ、カーマ、アーサ、そしてモクシャが握られていた。秩序、欲望、意味、解放だ。それは死と復活の戦いからの解放を意味する。お前はナムラスクとして生まれ変わり自由を得たのか?」 彼は繰り返した。「ナムラスクは生地を売っている」 「そうかもな」彼女は笑いながら言った。「ただ、モクシャがお前に真の復活を与えてくれたとは思えない」 「私はお前がアキレウクスだった頃に何をしたか覚えている。これからも忘れることはないだろう」と彼女は静かに言った。 彼は他の略奪品と同じようにその名前を盗み、それを活用した。それは偉大な戦士であり、有名な使者でもある、ある人間の英雄の名前だった。アキレス。それは「敵にとっての災い」という意味だった。