
I: スパーキーとはみ出し者
伝承
ささやかな焚火の数メートル上に浮かびながら、ゴーストが再びルールの説明を行なった。光の戦士は固い灰色の根を噛んでいる。火であぶって柔らかくしたことで、根の持つ酸味が黒こしょうに似た味わいに変わっていた。彼は無意識のうちにその味を楽しんでいた。 彼がゴーストの話を遮った。 「説明はもういい。ルールなどどうでもいいとちゃんと説明したはずだ」と彼はようやく口を開くと、からかうように言った。「お前の提案した名前はどれもいまいちだ。となれば、お互いに他の名前にするか、どちらもこのままでいるかだ」 ゴーストは視線の高さまで降りてきた。シェルが炎に照らされて紫色に輝いている。「私はこれまでにも素晴しい名前をいくつも持っていました」とゴーストが言った。「そのうちのいくつかはかなりのお気に入りです」 光の戦士は首を振った。「私も以前は名前を持っていたらしいが、お前が教えようとしない」 「教えられないのです」とゴーストが訂正した。光の戦士が黙り込んだ。 ゴーストが静かに溜息をついた。「純粋に興味があるのですが」とゴーストは慎重に言った。「私にどんな名前を付けたいですか?」 「お前は… 暗黒の中の光だ」と光の戦士は言い、言葉を切った。突然その言葉の重圧を感じ、言葉を詰まらせる。 最初からこの小さなゴーストは、彼にとって唯一の道標だった。彼にとっては身に覚えのないことだが、彼が過去に犯した何らかの罪について、これまで出会ってきたガーディアンたちに例外なく責め立てられた。そしてそのたびにゴーストは熱心に何度も何度も、彼を繰り返し直し続けた。 ゴーストは励ましの声と盲目的な頑固さで彼を支え続けた。腹部に得体の知れない不安を感じて苦しみながら目を覚ました時は、ゴーストが彼の胸の上に乗り、眠りにつくまで静かに音を立てながら彼を見守った。 光の戦士は落ち着きを取り戻すために深呼吸をした。「だから、お前をスパーキーと名付けよう」 ゴーストは苦しそうにうめき声をあげると、空中で収縮して地面へと落ち、散らかった落ち葉の中に顔を埋めた。 光の戦士は笑った。「あまりしっくりこないようだな、スパーキー」 ゴーストはパルスを発生させると落ち葉の上を転がった――小さく、のんびりとした動きだ。そして光を明滅させた。「酷い名前です」と単調に言った。 「神経質な奴だ」と光の戦士が鼻であしらうように言った。「分かった。もっと良い名前を付けてやる」ゴーストが慎重にホバリングを再開した。 「グリームはどうだ?」と彼が聞いた。「フラッシュ? それともグリントか?」 「グリント?」ゴーストの目に虹色の光が広がった。この現象は通常、敵の動きや戦闘結果を計算する際に起こる現象で、何百発という弾丸の軌道をマッピングして何百万通りもの射線を予測することができる。「なるほど、グリントは気に入りました!」 光の戦士は炎に近づき、深く頭を下げた。「あなたにお会いできて光栄だ、マスター・グリント」と言うと、彼は指を延ばしてグリントの角張った部分と握手をした。その仕草の滑稽さに、この小さなゴーストは喜んだ。 「お前の名前も決まったことだし、これからは自分の名前探しにももう少し積極的になれそうだ」グリントは相棒の成長を感じながら空中でうなずいた。その夜、2人はいつもより早く火を消した。 翌朝、1人の通行人がヘルメットをかぶっていないグリントの光の戦士を目にした。そのタイタンは炎のハンマーで彼を容赦なく叩きつけると、彼の鎖骨を折り、骨盤を砕いた。彼は内出血によって数時間後に死亡した。グリントは彼を復活させると、2人は無言のまま長い旅へと出た。

II: アイデンティティ
伝承
エーテル管が音を立て、その不規則なリズムでスパイダーの隠れ家に来た新たな客をもてなした。 彼はためらいがちに中に入った。金色の瞳が臆病な動物のように室内を見回した。反逆者の出で立ちで、葬式用の白いショールを掛けている。その肩には無数の重荷がのしかかっているかのようだった。空腹のせいで痩せ細り、見知らぬ人物の残虐な行為によってボロボロになっていた。彼は“同情心”から休む場所を与えられた。その両脇にはエーテル管があり、周りからはほとんど丸見えだった。 スパイダーは玉座から身を乗り出すと、今にも地面に着きそうな姿勢になりながら、口に手を当てて頭の中の考えを整理していた。「何もなしか?」とスパイダーが補佐役の1人に言った。その補佐役は無言のまま首を振ってその質問に答えた。 「間違いないのか? これは単に…」と言うと、スパイダーの腕の1本が要点を指し示すかのように空中で揺れた。「何も裏がないということか?」その意見を完全に肯定するかのように静寂が辺りを包み込んだ。 「驚いたな」スパイダーはうなり声を上げると、玉座から滑り落ちた。彼は驚くほど優雅に地面に降り立ち、ゆっくりとした足取りで――わざと弱々しく見せながら――体を伸ばして適当に配下を追い払った上で近くの保管室へと向かった。そこにあるエーテル管は静かで、かろうじて音が聞こえる程度だった。 かつてはユルドレン・ソヴ王子と呼ばれていたその男は、葬式用の破れた白い布をかぶりながら、床に腰を下ろしていた。スパイダーが出入り口に投げかけている大きな影に気づくと、彼は立ち上がり頭を下げた。「バロン」と彼は言った。だがそれは彼の勘違いで、スパイダーはそのような称号は持っておらず、大きなハウスの代表でもなかった。スパイダーはそれに応じるように気取った笑い声を上げた。だがその一方で必死に平静を保とうとしていた。 「まるでドレッグのブーツの靴底だな」とスパイダーは言うと、その前屈姿勢と不規則な足並みとは裏腹に、静かにその部屋へと滑り込んだ。彼の客――まさしく光の戦士――は当惑した様子でゴーストのほうを見た。 「いつもはもっとマシでした」とゴーストが答えた。スパイダーは会話に入り込んできたゴーストの批判は控えた。それと同時にわざとらしく無視した。 「宇宙で漂流していたらしいな、お前の船は… 瓦礫に衝突した」とスパイダーが言った。「恐ろしいほど寛大な奴らだ… お前を助けるなんてな」スパイダーがその青く光る目で、ゆっくりと薄暗い室内を見回した。彼は近づき、光の戦士の態度と表情を観察した。まるでその匂いにかすかに親しみを感じているかのようなそぶりだ。「あの真空の中に、どれぐらい閉じ込められていた? 死んで復活して… それを何度も繰り返していたのか?」 光の戦士は少し前屈みになると、記憶を探すように金色の目を床に向けた。「その状態が永遠に続くと思っていた。もう逃げられないと覚悟を決めていた。だが…」と言うと彼はスパイダーを見上げた。エーテルを取り込んだ瞳が光を発している。「助けられた」 「それが俺だ」とスパイダーは待ちわびたように言った。「人助けが好きなんだ。それは間違いない」この光の戦士が彼を知らないことはもはや明らかだ。スパイダーはゆっくりと近づくと、この新たな客を見極めるように観察した。「そういえばまだ名前を聞いていなかったな」と彼は付け加えた、これが最後のテストだ。 「私は…」光の戦士はどう答えるべきか分からなかった。ゴーストも黙り込んでいる。「名前がない」その答えを聞いたスパイダーは、必死になって笑い出しそうになるのをこらえた。 「そいつは通用しないな」と言うと、スパイダーは光の戦士の肩に手を置いた。「通用するはずがない。名前のない奴を…」と言うと、スパイダーは続けて強調して言った。「ここに置くわけにはいかない」 スパイダーはさらに近づくと陰険な声で言った。「仮の名をつけるのはどうだ? しばらくの間だけだ。俺とお前の間だけで」と言うと、彼は重々しく静かな声で続けた。「例えば… クロウはどうだ?」 光の戦士の目からは何の感情も読み取れない。スパイダーの目は捕食者のような光を発していた。

III: 親切心
伝承
そのウォーロックにとってウォービーストなど取るに足りない相手だった。カバル軍の動きは遅く、開けた場所でも相手の戦力を削ることができた。巨大なセンチュリオンでさえも、1体だけなら彼女の相手ではない。だが今回は3体のサイオンが崖の上に現れライフルを彼女に向けていた。遮蔽物の外に移動すれば、その瞬間に倒されるだろう。 ドルイスはきめの粗い赤い砂の中に膝をつき、息を切らせながら悪態をついた。このような状況は予期していなかった。彼女にはテレポートするエネルギーが残されていなかった。ここから脱出するのは骨が折れそうだ。 深呼吸をすると、彼女は手の中にボイドグレネードを生成した。そして―― 崖の上で爆発が起こった。銃声だ。カバルのスラグライフルから発射されたオゾンではない。昔ながらの黒色火薬の鋭い音だ。 センチュリオンが陣形を整えようとしたが、カバル軍はすぐにパニックに陥った。何かに狙い撃ちにされ、カバル軍が耳障りな悲鳴を上げた。再び爆発が起こり、飢えたウォービーストたちが静まりかえった。 銃声が近づいてきている。センチュリオンが大声で叫んだ… そして何も聞こえなくなった。 ドルイスは注意深く蔽物の後ろから顔を出した。カバルの部隊が谷の近くに積み重なっている。サイオンの残骸が崖の上に散乱していた。空気は濃い煙に満たされており、黒油の臭いがする。 虐殺現場の中心で、1人のハンターが武器をホルスターにしまうと、死体をまたいだ。足取りには一切迷いが見られなかった――必要最小限の動きだ。動きは洗練されている、例えハンターだとしてもだ。ドルイスは遮蔽物の後ろから出ると、手を上げて挨拶をした。 「やあ、ガーディアン!」と彼女は言った。「見事な腕前だ! 私はドルイス、おかげで助かった」 ヘビーヘルメットをかぶっているせいでハンターの表情は分からない。彼は儀礼的に手を振ると、そこに膝をついてセンチュリオンの武器を調べ始めた。 自分が立ち上がったことで、ドルイスはそのハンターが自分よりも頭1つ分小さいことに気付いた。臆病風に吹かれて岩の後ろに隠れている時は、どんな人物でも自分よりも大きく見えるものなのだろう。 彼女はヘルメットを脱ぐと、新鮮な空気でそのスレートブルーの肌を冷やした。頭上でまとめられていた彼女の黒髪が力なく広がっていく。彼女はその黄金の瞳でハンターを見つめながら笑った。 「簡単なサルベージをするためにここに来たんだ」と彼女は言った。「物資をトランスマットして、シティへと運ぶ。午前中はずっと頭痛がしていたから、大きな音を出したくなかった」 ハンターは視線を上げずにうなずくと、スラグライフルから輝く媒体を引き抜いた。 ドルイスは笑った。「問題ない」と彼女は言い、フォールン・リージョナリーの体をブーツで蹴飛ばした。「それだけの射撃の腕があるなら、話す必要はない」 ハンターは動きを止めると、立ち上がって彼女と目を合わせた。 「私は… クロウと呼ばれている」と彼は言った。「力になれたようでよかった」 ハンターの声は柔らかく洗練されており、その端々に冷たさを感じさせたが、非友好的な響きはなかった。 「感謝するのはこちらのほうだ」とドルイスは言った。「復活したとたんに頭痛に襲われて、今日は本当についてないと思ってたところだ。カバルにも言ったが、聞く耳を持たなかった。失礼な連中だ」 クロウは上品に笑った。「その気持ちは分かる。私も生き返った後は、数時間は気分が悪い」 彼は振り返るとカバルの武器の物色を続けた。そしてとあるものがウォーロックの目に止まった。彼女は歓喜の声を上げ、ハンターは顔を上げた。 「驚いたな!」ドルイスが声を上げ、彼の腕を指さした。「お前はリーフ生まれだろう? ここでは地球生まれだが、私たちは昔馴染みということになる!」 クロウは自身を見下ろした。ガントレットのレザーは引き裂かれ、アウォークンのグレーブルーの地肌がはっきりと目に見えた。 再び目を上げると、ドルイスは大きく足を進め、2人の間の距離は縮まっていた。彼は武器のほうへと手をやったが、ウォーロックはその背中を手で叩いた。 「その声と、仕草から分かったよ」背の高い女性は楽しげに左右に揺れ動いた。 クロウは沈黙を守った。 ドルイスはハンターのヘルメットに隠された表情を見てみたいと願った。ベルトにかかったトラッカーからは通知音が流れていた。 「ようやくいいニュースが入った。私たちは今、物資の真上の地点にいる」彼女は辺りをスキャンすると、岩陰に半分隠れた小型船を見つけた。「カバルの手からこの貨物を守ったのだから、お前にも分け前をもらう権利がある」 「その必要はない」とクロウは言った。重心をずらすと、露わになっていた腕を背中のほうに隠した。ドルイスの目に映る不審な行動は、それが初めてだった。 「別に無理にそうしろとは言わない」と彼女は返した。「アウォークン同士のちょっとしたよしみだ。大して時間は取らせない」 彼女は砂に埋もれた小型船に潜り込むと、船の中のクレートを見つけた。パネルには鈍い赤色のライトが瞬いている――ロックは遥か昔に壊れたようだ。手近にあったクレートの蓋をこじ開けた。薄汚れたボトルの中には、優しくオレンジ色に光る液体が入っていた。そのうちの1本を開けると、服でボトル口を綺麗に拭い、そのまま口をつけた。蜂蜜の甘さと塩気が彼女の喉を焼き、生姜の風味が鼻を抜けた。 「ツイてるぞ!」ドルイスは声を上げながらボトルを手にして外へと躍り出た。しかしハンターは既に姿を消していた。 ドルイスは岩の上にボトルを降ろし、その横に腰かけた。彼が戻ってくるとは思っていなかったが、それでも彼女は待った。待っている間は服の端に付いた乾ききった血をこすり取って時間を潰した。そしてようやくため息を漏らすと、太ももを掌ではたき、ボトルへと手を伸ばした。 「クロウに乾杯」そう言いながら肩をすくめた。

IV: 土星
伝承
彼にとってスコーンはそもそも怖い相手ではなかった。 クロウも無駄撃ちをしないタイプで、開けた場所でスコーンを見つけた時は遠距離から数十体を始末した。彼はグリントからスコーンとエリクスニーの間に何らかの関係があると聞いていた。言われてみればそのとおりだ――動きがエリクスニーに似ている――だが奴らは復活する。 バロンの倉庫が襲撃隊に襲われた時、彼はすぐさまクロウを現地へと送り込んだ。彼は「スコーンはビジネスにとってマイナスになる」と言っていたが、クロウは息苦しそうなその湿った声から、彼が復讐を望んでいることを理解した。 クロウは見つからないように慎重に行動した。だがそのスコーンは嗅覚か、触覚、またはその他の何かで、彼の存在を感じ取っていた。彼はスコーンの領土の深部へ入ることを余儀なくされ、スコーンたちに追跡されながら、溶接された船の船殻の中をゆっくりと進んだ。 彼らはクロウを袋小路へと追い詰めていた。遺棄船の出口は1つしかない。彼らが中へと入り始めた――そしてクロウは自分が距離を取って戦うほうが遙かに得意だということに気付いた。 スコーンの肉体は腐っていて、金属の船殻の中に押し込まれた肉のそこかしこに傷跡と火傷があり、そこからボルトで大まかに止められた不格好な筋肉が垂れ下がり、水滴がしたたり落ちるソケットには丸めた茶色の布が押し込まれていた。 クロウはリボルバーをリロードすると小さな3体のスコーンを撃った。ヘルメットが薄かったのか、あるいは骨がまだ出来上がっていなかったようだ――いずれにしても、倒すには1発で十分だった。真鍮の下の化膿した傷跡が発する、すえた臭いが空気を満たした。 鎖を金属にこすりつけるような音が左から聞こえ、クロウは身を翻した。巨大な体が船殻の間を強引に通り抜けようとしている。 クロウは撃った。その生物の肩にできていたいくつかの青色のコブが破裂した。傷からは低濃度のガスが発生し、冷たい溶剤の刺激臭を放出した。彼はその生物の体を引き剥がすと、その死体で穴を塞いだ。 2体のストーカーが隙間から入り込んで彼の側面へと回り込んだ。彼は後ろに飛び退いてリロードした。その時には自身が船のさらに奥へと押し込まれていることにも気付いていた。目に飛び込んできた燃え盛る香炉を躱そうとしたが、頭の側面にあたってしまった。鼓膜が大きく揺れ、手にしていたリボルバーを床に落とした。 ストーカーが興奮したように叫んだ瞬間、何かが彼を引き倒した。それは巨大なレイダーだった。質の悪い4本の腕が汚いベルトで繋ぎ止められている。彼はその腕と格闘しながら、ベルトが軋みながら捻じれていくのを感じた。 のしかかっていたレイダーは、特徴のない金属のフェイスプレートの下で遠吠えを上げ、大きな腕で彼を地面に押さえつけると、残っていた小さなほうの腕でライフルの準備を始めた。 尖った爪がクロウの頬を切り裂いた。クロウは体全体を動かして掴んでいた腕を蹴り飛ばした。顎に突きつけられていたライフルを掴み、2体のストーカーのほうに狙いを定めた。そして手探りで引き金を捜した。弾が命中し、ストーカーたちは悲鳴を上げて倒れ込む。 レイダーが吠え、クロウの手からライフルを奪い取ると、それを放り投げた。武器を失ったレイダーは、激怒しながら残っている腕でクロウの装甲を切り裂いた。クロウはその爪が自分の服に触れ、引き裂くのを感じた。腹部は血に染まった。 レイダーは狂ったように大喜びしながら、クロウの顔を自分に近づけて不格好な歯を見せた。金属のフェイスプレートの下から薄い粘液が流れ出て、それが唇のない震える口を伝い、クロウの顔へとしたたり落ちた。 その時、彼はその生物が喋っていることに気付いた。 彼はその瞬間、純粋な不快感に続いて、恐怖を感じた。思考力を持たない狂気の生物に体を引き裂かれるのと、これは… 全くの別物だ。 クロウはレイダーの腕よりも、自分を包み込む光の力を強く感じていた。彼が水中にいるかのようにその生物を蹴り飛ばすと、引き裂かれた腹部に激痛が走った。 レイダーは両腕を交差させたがそこには何もなかった。レイダーが怒りながら視線を上げると、体を引きずりながらそこから離れていくクロウの姿が見えた。 クロウは船の錆びた机に手をついて体を支えた。光が体から蒸気のように湧き上がってくる。「ナイフ」と彼が頭の中で念じると、放出されたエネルギーの一部が刃となって彼の手の中に現れた。 彼は立ち上がった。レイダーは地面を爪で擦りながら突進すると、そのかぎ爪で彼を攻撃した。クロウは左によけるふりをしてから腕で体を逆方向に引き寄せると、回転して膝つきながらそのままの勢いでナイフを突き出した。 刃が化け物の胸に突き刺さっている。刃は光そのものだった。そして化け物は炎の塊となった。 煙は清らかで、その灰は澄んでいた。 その光こそがクロウの武器だった。そして彼が船から出ると、手の中にある光が、何度も何度も繰り返し唸った。 クロウが炎柱のような姿で暗闇の中を歩いていた時に、彼のもとへとグリントを導いたのもその光だ。 クロウを狂気から守ったのもその光だった。クロウの頭の中である声が鳴り響いていた時にも。 「主よ主よ主よ主よ主よ」

V: タランチュラ
伝承
グリントはもう一度座標を確認してから、スパイダーの地下輸送倉庫に入った。 彼は頼りなく空中に浮かびながら、きちんと積み上げられたクレートの間を通り抜け、頭上にぶら下がっているやかましいチューブの下を通り、砕けたフェーズガラスの山の上を乗り越え、量子オパールと思われる物質を覆い隠すように薄紫色の煙を大量に噴き出している通気口の中を通った。(ただ、この手の不安定なアイソトープの個人所有は禁じられているため、グリントはそれ偽物だと結論づけた。) 彼は倉庫の中心にある大量のコンソールの前で作業に当たっているスパイダーを見つけた。複雑な重力の流れが空気を満たし、貨物をゆっくりと移動させている。錆びた虹色の門が開閉し、スパイダーが領土の端々へと荷物を送っている。 「クロウはどうだ」と顔を上げずにスパイダーは言った。グリントは近くに寄り、小さなモニターに映っている自分の姿を目にした。モザイク状のセキュリティフィード――入り組んだ岸辺の通路、奇妙な作業場、クロウの部屋――が映し出されている。スパイダーはその映像を消すと、振り返って直接彼に言った。「俺たちの友人は現場で上手くやっているか?」 「絶好調です」とグリントは答えた。「彼は以前より自信に満ちています、しかし――」 「そうか」とスパイダーは興味なさそうに言った。彼は目の前の空中を流れる割れた大きなセラフ岩の塊を引き寄せ、それに爪を這わせると、再びビームの中に戻した。「誰か奴に言ったか?」 グリントは質問の意図を理解していた。「いえ、はっきりとは。彼は自分が善人ではなかったことを知っています。そうでなければ何度もガーディアンに殺されたりしませんから。ですが昔の名前はまだ知りません」 スパイダーは満足したように静かに息を漏らした。「秘密も漏らしていないだろうな?」 グリントの瞳が瞬き、ほとんど聞こえないほどの小さな処理音を発生させた。スパイダーが前のめりになった。「何か言うべきことがあるのか?」 「そんな深刻な話じゃありません」とグリントは言った。「あるウォーロックに出会ったんです、彼女は彼がアウォークンであることに気付き、そして――」 「見られたのか?」とスパイダーは叫ぶと、側を通っていたクレートの側面を叩いた。その中から鳴き声のコーラスが聞こえてきた。グリントはそれが視界の外へと消えていくのを眺めた。 「見られてはいません」とグリントが言った。「グローブの下の肌に気づかれはしましたが、それ以上の危険は冒せないと判断してその場をあとにしたと聞いています」 「それは嘘だな、グリント。お前にも嘘をついている」スパイダーの目の光が鈍くなったように見えた。スパイダーの小さな腕がイライラした様子で横腹を掻いている。 「いずれにしても時間の問題です」とグリントは静かに言った。「皆が彼の噂をしています。チャルコと呼ばれる者が、彼を追跡しているという話も耳にしました。スコーンが彼のことを『主よ』と言っていたのを彼も聞いています。いずれ答えにたどり着くはずです」 「俺は意味もなく奴にルールを与えたわけじゃない」 「ルールを守るようなタイプではありません」とグリントが口を滑らせると、スパイダーがにらみつけた。「ストレスなのは分かります。ですが次に会ったガーディアンに質問したら、私では止められません」 スパイダーがうなった。「止めるのはお前の役目だ」 「とにかく」とグリントは言った。「彼もいずれは自身の過去なんか気にならなくなるはずです。重要なのは今の彼が誰なのか、ということなのですから」 「奴は俺のものだ」とスパイダーが甲高い声で言った。「お前がそのことを奴に思い出させてやれ」傷ついたクレートが横を通り、その後ろではグリマーが重力ビームに引っ張られながら空中で回転している。 小さなゴーストは何も言わなかった。彼はしばらく空中で揺れていた。そしてスパイダーの目の高さへと移動した。 「バロン・スパイダー」とグリントは敬意を込めて言った。「生まれ変わったばかりであるにも関わらず、クロウは既に十分な仕打ちを受けてきました。彼は本当の苦しみというものを知っています」 グリントはスパイダーの無視を黙考と勘違いして続けた。 「彼はもう傷つくことを恐れていません。彼に残ってほしければ」と彼は助言するように言った。「脅迫以外のことをしてあげるべきです」 スパイダーはその生意気な小球体を見ながら、体の中から怒りが湧き上がるのを感じた。だが彼は年齢を重ねていた。そして何よりも賢かった。彼は怒りを吐き出し周囲に漂わせると、他の者ではその水面をのぞき込めなくなるまで、その黒い水に怒りを浮かべた。 「ご苦労、グリント」と彼は言った。その声は落ち着いていた。「必要になったらまた連絡する」 グリントは得意げに音を鳴らすと、うやうやしく空中で頭を下げ、密輸品の山の間を縫うようにして素早くその場を立ち去った。

VI: 亡霊のスイッチ
伝承
エーテル管が音を立てている。 クロウが現場から戻ってくると、スパイダーは猫背になりながら、玉座の片側に身を寄せ頬杖をついていた。 「バロン」とクロウは上辺だけの後援者に向かって言った。スパイダーは視線を上げると、光の戦士に無言でこちらに来るように示した。クロウは玉座に近づくと、膝をついた。 「出て行く前にどんな話をしたか覚えているか?」スパイダーの修辞的な質問が、クロウの肩に岩のようにのしかかった。クロウは視線を上げなかった。そして質問に答えようとするとスパイダーが口を挟んだ。 「ガーディアンは信用できない」とスパイダーが言った。「奴らは有用だし強い。だが信用してはならない」 「バロン、私はただ――」 「黙れ!」とスパイダーが大声で言った。「お前は何も考えていない! 少し考えれば、自分の身を晒せば…」と言ってからスパイダーは思いとどまると、玉座に座り直して言葉を濁した。「おかげで台無しだ」 クロウは頭を下げ、視線を地面に固定したまま何も言わなかった。彼はスパイダーの怒りを理解していた。その苛立ちを理解していた。その憤りを理解していた。彼は二度とそれを目にしたくなかった。 「しかしだな…」とスパイダーは慎重に言葉を選びながら言った。「…明らかな反逆行為とはいえ、全てを否定するわけではない。ガーディアンは無視できないほど貴重な人材だ。特にお互いの――いわゆる――専門分野外のことに関してはな」 するとようやくクロウが恐る恐る顔を上げた。彼は一瞬、微かな誇りを感じた。もしかしたら、反抗的な態度を示したことで、自分がただの都合の良い光の戦士ではないということをスパイダーが理解してくれたのかもしれない、とクロウは考えた。 スパイダーが手を伸ばした。「いいアイデアがある… お前を守るためのな」たとえクロウを人ではなく、商品として考えていたとしても、その声は本心から発されたもののように響いた。「グリントを呼べ」 クロウは緊張し、視線を逸らしたが、再び反抗的な態度を示すには早すぎると考えた。彼はうなずくと、その指示に従ってグリントを隣に呼び出した。ゴーストは不安そうな視線をクロウに向けてからスパイダーのほうへと近づいた。 「どんな… ご用でしょうか?」とグリントが尋ねた。 スパイダーはその質問に答える代わりに、空中に浮かんでいたグリントを掴み取った。グリントが悲鳴を上げ、クロウは素早く立ち上がるが、それと同時に、スパイダーの護衛のアークパイクが彼に向けられた。スパイダーは喉の奥でクリック音を響かせると、近くに置かれていた道具に手を伸ばした。それは死んだゴーストのシェルをこじ開けるための道具だった。その道具なら生きているゴーストにも効果的だろう。 「何をするつもりですか!?」とグリントが恐怖に声を震わせながら言った。拘束されているクロウの目の前で、スパイダーによる拷問が行なわれている。しかしこれは… これは彼のゴーストだ。クロウは恐怖を感じながらも、自分が状況を見誤っているのではないかと考えた。クロウは、永遠に記憶に残るような残虐行為をスパイダーが自分にするはずがないと考えていた。だがスパイダーが小さな針でグリントを麻痺させた時、クロウはその考えを捨てた。 「やめろ!」とクロウが叫ぶと同時に、スパイダーがグリントのプレートの間にヘラを差し込んだ。「やめてくれ!」 スパイダーが力を込め、プレートを剥いだ。そしてクロウに視線を移し、道具を持ち替えた。 「心配するな」とスパイダーが安心させるように言うと、その言葉が氷のようにクロウの体内を駆け巡った。「ちょっと… 改造するだけだ」と彼は言うと切断トーチに火を付けた。 「お前を守るためだ… この世界からな」

VII: 折れた翼
伝承
グリントのシェルにスパイダーの付けた傷跡が残っている。 「すまない」と、ほとんど聞き取れない声でクロウは言った。光の戦士としての能力と比較して、部屋の床に座っているクロウはかなり小さく見えた。その姿を1つのランプの白い光が照らしている。クロウは両手でグリントを優しく包み込み、揺り篭のように揺らした。グリントの単眼が彼を見上げながら弱く瞬いた。「本当にすまない」 「大丈夫です」グリントにクロウを責めることはできなかった。「私は――多分大丈夫です。スパイダーは…」彼は慎重に言葉を選んで続けた。「…ゴーストの改造に非常に精通しています」 「奴はお前の中に爆弾を組み込んだんだぞ!」クロウは声を荒げた。その声は枯れていた。 「ですが私はここにいます。あなたと一緒に」とグリントは元気づけるように言った。「それにあなたは光を失っていません。それが何よりも重要です」 クロウは傷ついたゴーストを見ていることができず、天井を見上げた。彼は何も言わなかった。部屋が静寂に包まれた。エーテル管がカタカタと鳴る音だけが響いた。「こうなったのは私のせいだ」とクロウは静かに言った。「私の責任だ」 「どうしようもありませんでした。過去は変えられません」とグリントは言うと、少し体を傾けながらクロウの手のひらの上に浮かんだ。まるで翼を痛めた鳥のようだ。「私たちにできるのは未来を見据えることだけです」 クロウは無理矢理視線を戻すと、明滅するグリントの単眼を見た。「私の未来はお前と共にある。私にはお前しかいない。お前だけが…」彼はスパイダーに聞かれていることを恐れて声を潜めた。「私を気に掛けてくれるのお前だけだ」 「今後そうした人に出会うかもしれません」とグリントは反論すると、浮かんでクロウの顔に近づいた。「あなたは囚人ではないのです」と加えた。「あなたは… 逃げることだってできるのです。そして普通の生活を送ることも。光のない人生を」 クロウの顎に力が入った。彼は食いしばった歯の間から絞り出すように言った。「いや、お前を見捨てはしない。お前も私を見捨てるような真似はしないはずだ」 ゴーストはしばらく遠くに目をやり思いを巡らせ、浮かんだり沈んだりを繰り返した。「そのとおりです」とグリントは言うと、再び光の戦士と向き合い、優しくそのシェルでクロウの鼻に触れた。「あなたを一人にはしません」 クロウは手を伸ばしてグリントを手のひらで優しく包み込んだ。「我々には自分たちしかいない」とクロウは囁くと姿勢を正し、グリントをぐっと傍に寄せた。「スパイダーは我々をずっと繋ぎ止めておくつもりだ…」 「…だが我々には少なくともお互いがいる」