花びらをゴミ袋の中に掃けば掃くほど、まだまだ残っているようにライオネルは感じた。彼の腰は、加齢によって少し折れ曲がり、終わりの見えない掃き仕事に抗議するかのように痛んだ。
ロングコートを身にまとった男が、長く伸びる廊下の反対側からライオネルを見ていた。じきにいなくなるだろうとライオネルは思っていたが、その男は緑色のコインを指ではじきながら、何もせずそこに立っていた。
「何か用か?」ライオネルは苛立ちを募らせながら尋ねた。
「奴らは年寄りにこんな仕事をさせてんのか?メンテンナンスフレームだけで十分だろ?」
「一気に片付けるためだ。そこらじゅう花びらだらけで…ほら、子供たちが騒いどるあのせいで…」
「真紅の日々」
「そう、それだ」
「おいおい!真紅の日々を祝うのに年齢は関係ないぜ」
「タワーが落ちたその日に妻は死んだ」
男は天井を見つめた。ライオネルは手を止めない。
「今日は特に用事もないし...」男は続けた。「これは俺に任してもらおうか」
「いや、いいんだ」
ライオネルはまた花びらで溢れた塵取りをゴミ袋へと入れ、差し出された男の手の方へ向かっていた。彼のその開かれた手は光り輝くサファイアの塊でいっぱいだった。
「すごい量のグリマーだな」ライオネルはグリマーと男とを交互に見て言った。
「あんたのだ。俺に手伝わせてくれ」
「おまえ、ガーディアンか?」
「ちょっと複雑でね」
ライオネルは、男の手の上にある純物質をじっと見つめた。
「ベストと帽子もつけてくれ」男が言った。「頼むよ」
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男はコートを脱いでライオネルの橙色のベストを身に着けた。ライオネルの帽子も、その目が隠れるほど目深に被った。歩き出した彼はホールを懸命に掃くフレームを通り過ぎると、立ち止まって、背後に続く花びらの散らばる廊下を指差した。「見落としてるぞ」と、男は言った。フレームは彼を見つめ、それから廊下を見た。新たな目標に向かって、フレームは前進した。
男は歩き続けた。
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橙色のベストを着たメンテナンス作業員がプラスチックの袋にゴミを移している傍を、ウォーロック、オノール・マハルが通り過ぎた。彼女の背後で、総意への扉が重く閉まる。
バンガードとシティのファクションの代表たちが大きなテーブルを囲んで座っていた。ケイドの席は空いたままだ。
「放浪者が市民にもたらす脅威は急迫したものではなく…」オノールが中に入ると、ザヴァラが総意に向けて話していた。「我々は、彼に正式な借地権を与える意向を固め—」
「機関は反対です」オノールは勢いよくさえぎった。
ザヴァラが振り返る。彼はわずかに頭を傾けながらオノールの方へと手を差し向け、集まった者達へ彼女を紹介した。「プラクシック機関代表のウォーロック、オノールだ」
「書類作業が残っているので、手短に述べます」と彼女は言った。「バンガードに異存がないのであれば、プラクシック機関は放浪者をシティから切り離したいと考えています。それも早急に。私達が実行します」
ザヴァラは彼女に視線を向けた。「留意している。だが、シティは全てのガーディアンに開かれていて―」
「彼はガーディアンではありません」
「シティは、シティを守る意思のある者全てに開かれている」
「お言葉ですが、司令官。この会議において機関は発言権があります」彼女はザヴァラの目を真っすぐに見つめ、テーブルの周りをぐるりと見渡して総意とイコラに視線を留めた。「シティ創設以来、プラクシック機関の存在意義はガーディアンから暗黒のアーティファクトを遠ざけることにあります。放浪者は、ガウルや邪神と同じく、人類に対する脅威だと私達は考えます」
「続けてくれ、お嬢さん」遂行者ヒデオが考えるように両手を合わせながら言った。
「お嬢さんではない」と、イコラがたしなめる。
オノールは両者を無視して続けた。「放浪者は、ガーディアン達に宿られた力は武器になると触れ込んでいます。ガーディアンを殺すために」
「最終的な死者は出ていない」とザヴァラが口を開いた。
「私達の知る限りでは」オノールが答える。「あなた方は、あの男が宿りの力との接触を当たり前にしようとしていることに対して目を瞑っている」
イコラとザヴァラは目を見合わせた。
「この数ヵ月、プラクシック機関は数多くのガーディアンが誤った道に進むのを見てきました」
「誤った道、とは一体何だ」アラーハ・ジャラールが言った。「今や誰もが同じ道を辿り、それが流行している」
「私の報告書にありますが」オノールが言った。「『ドレドゲン』という名を名乗る者達も出てきています。専門家としての意見を言わせてもらうと、思想の持つ力は強く、そして放浪者はそれを持ちすぎています。シティが新たな暗黒時代に突入する前に、奴が船と呼ぶ馬鹿げた物に乗せてエアロックから追い出すのが賢明です」
バンガードと総意は沈黙したまま彼女を見つめた。
「書類作業が残っているので」と彼女はまたそう告げ、向きを変えた。「私のオフィスの場所はお分かりですね」彼女が会議室から去る間際、先ほど見たメンテナンス作業員が帽子を深く被ったまま、通路で居眠りをしているのを見かけた。オノールは顔をしかめた。